理想と現実の間で【金沢プロジェクト#04】

PROJECT STORY 2026.07.31

計画案はまとまり、空間の輪郭も見え始めました。

けれど、図面の中で成立する建築と、実際につくることができる建築は、決して同じではありません。

ここから、その距離を埋めていく作業が始まります。

まず取り掛かったのは施工会社の選定でした。

1月中旬。

現地にて3社の施工会社へ計画内容の説明を行います。

今回のプロジェクトは一般的な新築工事とは大きく異なります。

昭和19年に建てられた本堂。

用途変更を伴う改修。

確認申請。

増築棟の新築。

さらに歴史的建築物としての価値も考慮しなければなりません。

図面だけでは伝わらない部分も多く、実際に建物を見ながら説明を行いました。

約1か月後。

各社から見積書が提出されます。

結果として工事をお願いすることになったのは、富山県を拠点とする工務店「もくもく」さんでした。

もちろん金額も大切な判断材料です。

しかし最終的な決め手になったのは、見積内容や質疑のやり取りでした。

古い建築物の改修では、現場でしか判断できないことが数多くあります。

そのため施工会社からの質問を見ると、その建物をどこまで理解しようとしているかが見えてきます。

もくもくさんからは施工方法や納まりについて具体的な提案も多く、この建物と真剣に向き合っていただけていることが伝わってきました。

施工会社が決まったことで、今度は予算との調整が始まります。

用途変更。

断熱性能の向上。

消防設備。

増築工事。

必要な要素を積み上げていくと、どうしても予算は膨らみます。

ここから何度も見積書と向き合うことになりました。

今回のVE(減額検討)は3回に分けて行っています。

1回目は施工会社であるもくもくさんからの提案です。

施工方法や材料の選定を見直しながら、工事費の整理を行いました。

2回目は設計側からの提案です。

コンセプトを崩さないことを前提に、本当に必要なものを見極めながら整理していきます。

そして3回目は施工者と設計者がオンラインではありますが見積書の一行一行を確認し、お互いの考えを持ち寄りながら検討を行いました。

何を削るかではなく、

何を残すか。

この建物にとって本当に大切なものは何か。

改めて考える時間だったように思います。

 

一方で、プロジェクト体制にも少し変化がありました。

初回の現地調査から関わっていただいていたdot studioの上野さん、池田さんと共に設計を進めていましたが、この頃、上野さんがプロジェクトを離れることになります。

お施主様からも上野さんの鋭い視点や意見を楽しみにしていただいていたこともあり、とても残念な出来事でした。

昨年の夏に初めてお会いしてから、それほど長い時間が経ったわけではありません。

しかし行政協議や設計検討を重ねる中で、同じ建築について考え、悩み、議論する時間は想像以上に濃いものでした。

少しずつ信頼関係が生まれ、欠かせない仲間だっただけに寂しさもありました。

以降は池田さん、田口、三重野を中心にプロジェクトを進めていくことになります。

 

その頃、現場では先行して解体工事が始まります。

今回の解体工事で最も重要だったのは、本堂と庫裡を切り離す作業でした。

長年の増改築によって建物同士が複雑につながっており、実際に解体してみなければ分からない部分も数多くあります。

解体工事中も3度現地へ足を運びました。

解体によって初めて見えてくる構造もあります。

古い建築の改修では、解体工事そのものが建物調査でもあります。

右にあった修行所や付属建築物も取り除かれ、本堂だけが姿を現していきました。

左で作業をされているのが八尾興業の中川さんです。

解体によって室内が露出してしまい、このままでは雨風によって建材が傷んでしまします。
八尾興業の中川さんや吉本大工さんに協力いただき、ブルーシートにて雨仕舞をしていただきました。

今回のプロジェクトでは、本堂と庫裡を切り離すという、最も神経を使う工程から吉本大工さん、八尾興業の中川さんにご協力いただきました。

解体工事というと壊す作業を想像しますが、今回は違います。

残すために壊す。

その判断の連続でした。

図面だけでは分からない建物の状態を確認しながら、一緒に悩み、考え、作業を進めていただきました。

お二人の役割はここで一区切りとなります。

振り返ると、昨年の調査段階から勝隆寺の変化を共に見てきた仲間でもありました。

この場を借りて改めて感謝申し上げます。

 

そして5月。

地鎮祭の日を迎えます。

昨年の夏に初めて現地を訪れた時には、まだ実現するかどうかも分からなかった計画です。

行政協議。

補助金検討。

確認申請。

見積調整。

解体工事。

実はこの日、最終的な見積書をお施主様へ提出しています。

写真の左から、下重さん(お施主様)、池田さん、田口、宮社長(もくもく)、花木監督(もくもく)。

もちろん今後も仕様変更による多少の増減はあります。

しかしVEを重ねながら調整を続けた結果、お施主様にもご了解いただける金額に収まりました。

設計者。

施工者。

お施主様。

それぞれが理想と現実の間で悩みながら積み重ねてきた数か月だったように思います。

まだ工事契約前ではありましたが、この日、計画が現実になる手応えを初めて感じることができました。

昨年の夏に始まったこのプロジェクトは、ようやくスタートラインに立ったのです。

しかし、本当に大切な検討はまだ残っていました。

この建物でどのような時間を過ごしてもらうのか。

その時間を支える家具や素材。

そして、お施主様が最初から大切にされていた「光」のあり方です。

地鎮祭の日、本堂に持ち込んだ素材サンプルを並べながら、図面やCGだけでは分からないものが確かに存在することを改めて感じていました。

ここから、建物と対話しながら、一つ一つを決めていく段階へ入っていきます。

 

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